チャーリー・ユーコン川下り 最終回 〜感動のゴール〜


翌日は快晴。
久しぶりのベッドで心地よく眠り、起きた時にはすでに朝の9時を過ぎていた。


昨夜発見した、キャビンのゲストブック。
そこには、ユーコンから流れてここに辿り着いた人達のメッセージが、たくさん寄せられていた。

色鉛筆で描かれたプロ級のイラストや、面白い漂流記。そして、外国語で書かれた物もあった。
日本人の書き込み、多数。
1998年の日付から残っていて、何度もここを訪れている人の名前もある。
みんな、このキャビンは豪華だ、素晴らしいと書いてあった。


もちろん私も、ノートに書いた。
そのメッセージは、



イサオさん行方不明。どこにいるんだ、イサオ!!


ここを見ている人で実際このノートを読んだ人、ぜひ私に連絡して欲しい。(いないか。)

朝の支度を終え、ぼーっと窓の外を見ていたその時、人が通った。




第2ユーコン人、発見!!


興奮して外に出ると、20代後半くらいのカップルだった。
2人はフェアバンクスに住んでいる夫婦で、カナダのドーソンシティから出発して昨日ここに着いたらしい。少し離れたもう一つのキャビンの方に泊まっていると言った。
とてもフレンドリーな人達。

しかし私は、その女性を見た瞬間から、どうしても気になって仕方なかった。


この女性、お腹が大きい。

妊婦?




いやいや、まさかね。
だって、ユーコン川をカヌーでここまで来てるんだし、今日は9日目と言ってたし。
きっとお腹だけ太っている女の人だ。アメリカ人だから、あり得る。



しかし2人が去って、後でやって来たフォレストレンジャーから衝撃的な真実が明かされる。




あの人、妊娠7ヶ月。




な、なんと!
7ヶ月のお腹で、ユーコン川下りですか。

恐るべし、アラスカ人。

フォレストレンジャーは、今日も親切。
子供達の写真を撮り、普段はイーグルに住んでるからとメールアドレスをくれた。


彼に、この仕事は好きかと聞いてみたところ、

「もちろん!面白い人達に出会えるし、こんな大自然の中に住めて、しかもお金がもらえる。」

と笑っていた。
そんな生活も、アリかな。


ちなみに彼は7年間ここで働いているが、
「チャーリー川を下ってきたのは、10代の子が一番若かった。8歳や5歳なんて、こんなチビッコは今まで見ていない。」
と言っていた。





やはり、最年少記録か?



準備をし、フォレストレンジャーにお礼を言って、ようやく出発したのは正午を過ぎた頃だった。

ユーコン川は、やはり流れが速かった。
チャーリーで、あんなに苦労したのは嘘のよう。
漕がなくても、どんどん進む。




ユーコン、楽チン!


ああ、イサオさん、今頃どこへ?
でも昨日よりはずっと、イサオさんは大丈夫という気持ちが強い。
彼は先にサークルに行って、私達を待っているハズ。

そう確信してるから、リーガンと2人冗談さえ言い合うようになる。



イサオさん、本書くって言ってたもん。
きっと最後に、イベントが欲しかったんだよ。

そうだよ。こんなウルサイ家族から離れて、一人孤高に、またムズカシイ事でも考えたかったんだよ。

きっと、そうだ。




そうに違いない。

そんな事を言いつつ、ラフトは西へと進んでいった。



途中、風が強くなってきた。
「タープを帆の代わりにしたら、もっと進むかも。」
リーガンの提案に、ムサシの目が輝く。


帆走作戦、開始。

風に煽られ、ラフトのスピードアップ!
速い速い!

ムサシは最高の笑顔を見せる。

アラシもダディのサポートで、帆を張るお手伝い。

いいね、いいね〜。ホントに漂流している気分。


私達のラフトは、どんどん進む。
イサオさんを探すためにも、今日中にゴールのサークルに到着したい。

食事の時間を短縮するため、昨夜リーガンが大量のケサディーヤを作ってくれた。
それを食べ、昼寝をし、読書やトランプやゲームをしながら、ラフトはどんどん進んでいった。


気持ちよく、ウトウトしていた時に、
「わー、熊だ!」
リーガンが叫んだ。

見ると山の方、何か黒い物が動いている。

おおー!ホントだ。熊だ!!

黒熊は、あっと言う間に山の中に姿を消していった。



見ましたよ、熊。
よかったよ。最後に見れて。
こんな遠くからなら襲われる心配もないので、とっても嬉しい。


他には、鮭を獲っているこんな仕掛けを何回も見た。

鮭を獲りに来る、モーターボートもよく見かける。

でも予想してた程、カヌーはいなかった。
あの先に出た、妊娠アラスカ人カップルを一度追い越しただけ。他にはいなかった。
カヌーイストの憧れの地のハズなのに。
いったい、みんなどこよ?

ラフトの上に10時間。
その日はなんと、1日で53マイルも進んでいる。

夜の10時半を過ぎた頃、とうとうサークルが見えてきた。

双眼鏡で見たら、岸の方に赤いカヌーも見える。

イサオさんだ!!


やったー!

ついにゴール!!
岸に上がると、テントの中にいたイサオさんが走ってきた。
3時間前に、到着したらしい。

サークルシティで、シャワーを浴びる。
蛇口を捻ると、水が出る。これって、素晴らしい事だよ。


シャワーを浴び、すっきりしてから、ユーコンを眺める。
夜中1時の夕焼け。
その時出ていた月は、まん丸でとても美しかった。

みんな、ありがとう。チャーリーもユーコンもありがとう。
一生忘れられない旅になりました。

チャーリー・ユーコン川下り その9 〜いよいよユーコンへ〜


川旅4日目。
朝、早く起きて出発のはずが、誰も起きてこない。
いや、起きられない。

横になると、ぐるぐる頭が回るのよ。
周りの風景が横に流れる流れる。テントで寝てるのに、まだ川の上で漂流している感じ。






・・・かなりキテルね。

もう疲労もピークだ。


乗ってるだけでこうなのだから、船を操縦しているリーガンやイサオさんは、相当疲れている事だろう。



動きも遅い。ノロノロと準備をし、出発した頃にはもう正午になっていた。

今日は、いよいよユーコン川に入る予定。
山火事の方向にも、どんどん近づいている。

3時半に、ランチの時間。
疲れていたのと火事の心配から、お湯を入れるだけの「テリヤキチキン」と「テリヤキビーフ」で簡単にすました。
昼食の後、子供達は棒を拾ってきて遊ぶ。武蔵という名前だけに、チャンバラごっこが好きらしい。
山火事をバックに、剣を振りかざす。


もうすぐユーコン川だ。あと1時間くらいで、チャーリーがユーコン川に合流している所まで着くそうだ。
ユーコン川はとても人気があって、カヌーイストの憧れと言われている。ユーコンに来る外国人では、ドイツ人と日本人が最も多いらしい。


「ユーコンで初めて人に会えるのは、何時くらいかな。」
イサオさんが呟く。
今までチャーリーリバーに降り立ってから、家族とイサオさん以外の人を見ていないのだ。







いよいよ、人間にも会えるぞ。

そんな話をしていたら、雲行きがだんだんと怪しくなってきた。これは一雨来そうだな。
私達はレインコートの用意をし、また川へと戻ったのだった。



川に出て少しして、やはり雨が降ってきた。
それも大雨!

だんだん激しくなり、大きな雨の粒が身体に当たる。
痛い。





これは痛い。痛い雨だ!


そんな激しい雨の中、リーガンは力強くオールを漕ぐ。
急いでここを、抜け出さなければ。


雨、脱出。


ほっとしていると、寒いとアラシが泣き出した。
ラフトの上で着替えさせ、ようやく落ち着いた頃にユーコン川が見えてきた。

やったー!ユーコンだよ。


広いねー。大きいよ。
そして、水がいっぱい。湖のように深いよ。


イサオさんも、後ろから笑顔でやって来た。
アーモンドチョコレートで、お祝い。
今までも何か達成したり、一日の疲れを取るのに、チョコで乾杯してきたのだ。

イサオさんにはオールの上に乗せて渡す。

オメデトー!
とりあえず、第一目標のユーコンに出たね。




ユーコンは、とにかくデカかった。
川の幅が、ハンパじゃない程大きい。
今までのチャーリーリバーと大違いだ。

そして、流れがとっても速い。
速いよ、速いよ。
川岸の景色が、びゅんびゅん遠ざかるよ。

何もしなくても、ラフトがどんどん先に進む。
オールを中に入れ、リーガンもしばらくユーコンの景色を眺めていた。


そうしているうちに、またも雨。
「早く、このタープの下に潜って。」
リーガンが、秘密兵器を出してくれた。

また痛くて冷たい雨に濡れるのは嫌なので、子供達と私はこの中に入る。
タープの下は暖かかった。そしてわりと明るいので、読書したりトランプしたり。

おお〜。これは便利。
リーガンよ、何故早くこれを出してくれなかったのだ。




しばらくタープの下に潜っていた。
やっと雨が上がり、ようやく外の景色を見る。
そこに、イサオさんの姿はなかった。




「イサオはずっと後ろの方にいるよ。多分、こっちにも気付いていたはず。」
と言うリーガン。
だいぶ前に、イサオさんを見たらしい。


ユーコンの、この川の大きさと流れじゃあ、見失うのもすぐだ。
チャーリーの時なんて、イサオさんが先に行って私達を待ってるなんて事も度々あったが、道は一つしかないし簡単に見付けられた。
でもここは広大なユーコン。中州もいっぱいある。
側にいないと、すぐ見付けられなくなってしまう。




その時リーガンが、岸にキャビンを発見した。
ラフトを岸に寄せ、キャビンを見上げる。
2階建ての立派なキャビンだ。


「イサオは必ずここを通るから。このラフトを見たら、止まるから大丈夫。天気も悪いし、とりあえずあそこに行ってイサオを待とうよ。」
ラフトを岸に上げ分かりやすい場所に置き、キャビンまで行ってみる事にした。
このキャビン。「SLAVEN'S ROADHOUSE」と書いてあった。
中に入ってみると、そこには人がいた。






人間だ!

第一ユーコン人、発見!!


この男性は、フォレストレンジャーだと言った。このチャーリー・ユーコン国立公園を保護するのが仕事で、このキャビンに月の2週間泊まっているらしい。

キャビンは公共の施設だから、誰でも無料で泊まれるとも言った。




タダ?こんな立派な所が。



興奮しつつ中を見てみると、1階部分にはベッドと机。そして2階には、2段ベッドが2つと、キッチンまであった。


キッチンだよ!
プロパンガスのオーブンに冷蔵庫まであるんだよ。





今まで7日間も野宿してきた私達にとって、ここは高級ホテル。


ラスベガスのシーザーズパレス、いや、東京の赤坂プリンスホテルだ。
今夜ここに泊まる事は、もちろんすぐに決定した。



それでもとにかくイサオさんの事が心配なので、雨の中を外で川を見てずっと待った。
待ったけど、来ない。
1時間経ち、2時間経っても来ない。

イサオさんが来ない。


どこにいるんだ、イサオさん!









なんという事。

イサオ、行方不明。


がーん。
どどど、どーすんのよ。
いったいどこに行ったんだ、イサオさん。

やっとユーコンまで来たのに、こんな所でいなくなってしまうなんて。





とにかく、あのフォレストレンジャーに報告する。

レンジャーは、
「とにかく朝まで待て。朝になったら、飛行機で巡回しているレンジャーに連絡するから。」
と言った。




リーガンは、
「イサオなら、大丈夫。」
と言う。

「ここで探しに行ったりしたら、流れが速いから余計危ない。今夜はここに泊まり、明日ゴールのサークルまで行って、いなかったら警察に電話しよう。ジェイソン(友人)と、飛行機で捜索も出来るし。
イサオなら、一泊くらい1人で大丈夫だから。イサオも、俺がいるから大丈夫だと信じて、探したりしないでそのままサークルに行ってて欲しい。」



・・・そうだよね。イサオさんなら大丈夫だよね。
彼のサバイバルスキルなら、1人でも生きていけるよね。


ちょっと、頭の中で計算してみる。
ゴールはサークルだと知ってるし、GPSもイサオさんが持っている。
今朝リーガンが、イサオさんがなくしたという熊スプレーを貸してあげていた。
熊はあれで、大丈夫なはずだ。

食料は?
そう言えば、イサオさんの非常食の米を、初日に食べてしまったな。でもまだ、半合ぐらい残っていると言ってた。
本当は昨日ご飯が食べたくて、一合ぐらいあるならちょうだいと言おうとしてたんだ。






よかったよ、米取ってしまわなくて。

殺すところだった。






それでもまだ、イサオさんがひょっこり現れるんじゃないかと、雨の上がったユーコンをずっと眺めていた。


「あー、こんないい所。イサオがいればもっと楽しかったのに。」
大丈夫だと言っても、リーガンも心配。
イサオさんの心配がなければ、高級ホテルキャビンを100%は楽しむ事が出来たのに。


それでもその夜は、久しぶりにキッチンで(リーガンが)ディナーを作り、ベッドで朝までぐっすり眠れたのだった。




さて、家族は無事にゴールまで辿り着く事が出来るか?
そして、行方不明のイサオさんの運命はいかに!?
次回、いよいよシリーズ最終回です。

チャーリー・ユーコン川下り その8 〜ロングラン〜


翌日も、6時起床。
まだ寝ているアラシをそのままの形で外に出し、テントを片付ける。
アラシは何も気付かず、ぐっすりと寝ている。
しばらく静かに寝てて、起きるや否や、
「ダディ、ケーキはどこ?」


アラシって、100%動いているか寝ているかのどちらかだな。



急いで用意をして、昨夜のアップサイドダウンケーキを食べ、9時半に出発した。

川の流れはいい感じ。
前3日間と比べると、はるかに違う。
漕がなくても乗ってるだけで、前に進んでくれるところもある。


川の上での〜んびりと過ごした。
居眠りしたり本を読んだり、ジェスチャーゲームやクイズを出し合って遊んだり。


私は寝そべって、持って来た単行本を開いた。
柴門ふみの「男性論」。

芸能界のいい男が、ずらりと紹介されている本だ。
いい男とは何か?淡々と語られてて面白い。


ふむふむ。何だか男性について、分かってきたぞ。
だけど柴門さん、チャーリーリバーをサバイバル出来る男以上のいい男って、本当にいるのでしょうか?


寝転んで本を読んでいたら、もうそこは自分の部屋気分。
こんなアラスカの大自然の中にいる事も、すっかり忘れてしまってたよ。

イサオさんは、カヌーに釣り竿を付けて、魚釣り。
リーガンも、このちょっとの間の休める時間を楽しんでいた。

岸の方には、白頭鷲の姿が。勇ましい。

そしてもう少し先には水を飲みにきたムースが、私達の方を驚いて見ていた。

他にも、ビーバーを見た。
川の上になんか大きな動物の影が見えると思ったら、バシャンと大きな音をたて、水の中に潜っていった。

ちょうどお昼頃、イサオさんがグレイリングをまたゲット!

やったー!

先に行って昼食地を見付け、魚の天ぷらを作ってくれると言う。

テンプラ、テンプラ♪
小躍りしたい程、嬉しい。

岸で食べた天ぷらは、それはそれは美味しかった。

「美味い!!」
何度も叫んでしまうほど。

天ぷらは、小麦粉がないのでパンケーキの粉で作る。
キャンプに来たら、ある物でみんな代用。

その日は暖かく、水も透き通っていい気持ち。
子供達は川に入って、水をかけ合いながら遊んでいる。

幸せな風景だなぁ。


そしてまた、川へと向かう一行。
目指すは、とりあえずユーコン川。ユーコン川に入ってから、そこから60マイル弱でゴールのサークルシティだ。
ユーコンは流れがもっと早いと聞いているし、あそこまで行けばきっと大丈夫だ。


しかし前方に、なんだかモクモクと煙が見えてきた。
山火事だ。

いったいどこだ?
私達の行く方向か?大丈夫か?

これは、旅を続けられるのだろうか。
火事のせいで、途中棄権とかになったら嫌だなぁ。


そこから9時まで川を進む。
夕食に一度止まって、また10時に川に出る私達。
すごいよ。もうこの時点で、ラフトの上に今日は10時間以上。
私達ってタフだな。


ここから先が、すごかった。
川は狭くなり、木がたくさん倒れているような、ジャングル地帯へ。

そこは蚊だらけ。
見た事もない程たくさんの蚊が、どこからともなく襲ってくる。
どこもかしこも、蚊。
多すぎて、真っ黒になっている。



まさに、蚊地獄。



ぎゃー。

リーガンがタオルを振って、蚊を追い払う。
みんなで立ち上がり、一緒にタオルを振りまわして参戦。
子供達は大笑いだったけどね。

家族全員で、一心不乱にタオルを振る。




端から見れば、何かの儀式?



蚊地獄をやっと越えて、戦い疲れた子供達はぐっすりと寝てしまった。



そのままずっと進むが、先に行ったイサオさんの姿が見えない。
彼は、キャンプ地を見付け私達のテントをたててくれると言って、先に行ってしまった。

キャンプするのにいい砂浜を何回か通り過ぎた。
時間はすでに、あと少しで夜中の12時半。

イサオはいったい、どこだ?



広い砂浜で、ようやくイサオさん発見。
もうテントをたて、キャンプファイヤーも用意されてた。


「ごめんなさい、止まるの遅くなって。よさそうな砂浜に一度降りたんだけどね。」
リーガンに謝るイサオさん。


「そこには新しい熊の足跡が何個もあったから、急いで逃げてきた。」





熊!?


熊の気配か。
山を下りてきて、確かに今にも熊が出そうな雰囲気が、一層濃くなっている。


前は私達の家族とは離れた所にテントを張っていたイサオさんが、今日は寄り添うように、ぴったりと側にテントを張る。

「実は熊スプレーを、B24ハイキングの途中で落としてしまってね。熊と戦うにも、武器がない。」


な、なんという告白だ。

そうか、イサオさんも熊は怖いか。


その日は25マイル進んだ。
イサオさんは、15時間以上もウェットスーツを着ていたとボヤいていた。
ユーコンと合流している地点まで、あと 14マイル。


身体は疲れているけど、なんか気持ちが充実してて、キャンプファイヤーを3人で囲み、人生とはとか生き方とか前向きに語ったいい夜だった。

チャーリー・ユーコン川下り その7 〜長い道のり〜


翌朝は、6時起床。
私達にとって、とても早い朝だ。
前の晩、大人3人で開いた緊急会議で問題点を話し合った結果、早起きをせざる得なかったのだ。


昨夜、GPSと地図を照らし合わせて確認すると、川旅を始めてから今まで、まだ11マイル(17,7km)しか進んでない事が判明した。

初日が5時間で5マイル。
2日目が6時間で6マイル。

1時間で1マイル進む計算だ。


しかし、全行程は134マイル(215.7km)もあるのだ。
そして残りの日数は4日間しかない。
134マイルから11マイルを引いて、123マイル。

...123マイルを4日間で。





全然ダメじゃん!

どーすんのよ、私達?



リーガンは、5日後の月曜日から仕事があるし、食料だってそんなに多く余分がある訳ではない。
最終日の日曜日には、パイロットの友人がゴール地点まで来る事になっている。
もし私達が到着してなければ警察に通報、そして飛行機で上から探すと言っていた。







早く着かなきゃ、捜索されちゃうよ。


仕事場にも友人にも、連絡しようがないし。
ここは、電話なんてもちろんない大自然のど真ん中。


どうにかして、4日間で123マイルを完走しなくてはいけない。

「朝早くから深夜まで、とにかく船を漕ぐ。徹夜も覚悟で。」

当然、そういう結論に達したのだ。




頑張るしかない!


朝は急いでテントを片付け、火をおこしてコーヒーとキッシュの朝食を取り、8時にはファルコンクリフを出発したのであった。

川3日目。
山を降りてきて、川の水はだんだんと多くなってきている。
途中小さな川も何個か合流し、水量が増えている。

水の中に入らなくてはいけない時間も少なくなってきて、最初の2日間より楽にはなってきている。とは言ってもまだ、20分間漕いだ後に、また5分間は岩の川でラフトを引っ張るというのを繰り返す感じで、まだまだ大変だ。





チャーリーリバー、油断ならない。

漕ぎながらも山の方を見ていたリーガンが、山頂を指差した。
山の上に、白い陰。

双眼鏡を取り出したリーガンが、ドールシープを発見!

おお〜。なんか可愛い。
旅始まって以来の、大きな動物だ。

少し前にいたイサオさんの名前を大声で呼び、山を指差す。
イサオさんはドールシープが分からない様子で、山の方をキョロキョロと見回し、近づいて行った。


その時。
山の下の方にいたドールシープの群れが、近づきすぎたイサオさんを警戒し、一斉に走り出した。

ドドドドーーーーー。

砂煙をまき散らし、すごい勢いで駆けて行くドールシープ。
なんか、自然の中にいると実感出来たよ。

その後も、たくさんのドールシープを目撃した。
人間が珍しいのか、子供のドールシープは、その場に止まってじっとこちらを観察している様子だった。
ランチタイム。
時間節約のため、イサオさんの速いカヌーが先に行き、食事出来そうな場所を見付け、火を興しておく作戦。

ランチは、温めるだけでいいチーズステーキサンドイッチ。
洗い物時間も節約のため、アルミホイルに巻いて食べる。


その日は7月4日。独立記念日だ。
花火でお祝いする代わりに、銃発砲。

心優しい友人が、熊の護身用として貸してくれたマグナム44を、リーガンとイサオさんが山に向かって撃つ。

大自然の中に、ガンの音だけがコダマしていた。


ランチの後は、また進む。
どんどん進む。
ひたすら進む。

大きな岩の横を通る。
見上げてみると、すごい迫力。

でも実家の隠岐にある、岩の風景に似ているなぁ。

その先で、イサオさんが雪を発見!
ラフトを停め、雪採取。

食料を入れているクーラーボックスを冷やすためだ。
もう氷になっている雪を、オールで壊してクーラーの中に入れた。

そしてまた、壮大な景色の中を青いラフトと赤いカヌーは進んで行く。



川で浮かびながらリーガンと話していたのだが、今回の旅、私達家族は最高の旅仲間と一緒に行けた。

イサオさんはアウトドアをよく知っているし、正しく行動が取れる人。
厳しい状況でも何も文句を言わず、むしろこの状況を楽しんでいるようにも見える。前向きで、いつも笑顔。一緒にいると楽しい。

そして私にとってラッキーな事は、日本語が通じる人だという事。
こんなすごい経験をしている最中に、自分の中で感じた感動や驚きを何不自由なくすぐ話せるという事は、実は外国に暮らしていると、とてもありがたい事になってくる。


イサオさんとは去年知り合い、とても気があって家族のような存在になっていたけれど、この厳しいチャーリーリバーを一緒に超えるという事で、ますます絆が深まりそうだ。

そんなイサオさんは、
「リーガンはすごい。」
と、何度も繰り返す。



「リーガンはすごいよ。」
「こんな所に家族を連れて来るなんて。」








・・・そこか。



そうだよ。リーガンは、家族をどこにでも連れて行くよ。
ムサシが乳飲み子の時から、サバイバルしてたよ。


2週間で10400kmの車の旅とかね。(テキサスーモンタナーテキサスーフロリダーテキサス。しんどかったって。)



でもリーガンのすごい所は、妻や子供を連れて行っても、それを1人でカバー出来る力だよ。


この重たいラフトも、なるべく私を川の中に入れないように、ほとんど1人で動かしてるし、オールを漕ぐのもリーガン。
オールは持つだけでも重すぎて、私は手伝うのを5分で諦めた。
リーガンの手はマメだらけになり、体中がすごい筋肉痛で、手の感覚もなくなってきているらしい。

1万4百キロの車の運転も、リーガン1人ですべてやった。(私は高速は運転しない。)


リーガン、すごいよ。
イサオさんも、すごい。


サバイバルスキルのある人って、かっこいいね。


そして夜の9時になり、ようやくキャンプ。
なんと今日は、27マイルも進んだ。

昨日の4倍以上の距離。
ヤッター。これなら4日後に、ゴール出来るかも。


ホットドックの夕食の後、リーガンがまたケーキを焼いた。
アップサイドダウン・パイナップルケーキ。
アラシがお手伝い。


出来上がる頃は、もう12時を過ぎていて、クタクタだったみんなは食べずに就寝。
明日の朝食用へとなったのだった。

チャーリー・ユーコン川下り その6 〜ファルコンクリフ〜


川2日目。今日も快晴。
昨夜のうちにしていた洗濯物も、ぼちぼち乾いてきてる。

カヌーが直り機嫌も直って、朝はムサシに釣りを教えるイサオさん。
リーガンは昨日の反省をふまえて、ラフトにバランスよく荷物を乗せる方法を考えていた。


そしてまた、厳しい岩の川へと挑む一行。

やはり、浅い川。
景色は素晴らしいが、浅い川はスバラシクない。

ムサシも川に入り、ラフトを引っ張るお手伝い。


岩だらけでラフトが動かなくなると、今度は岩の方を取り除くリーガン。

私も川に入り、何度もラフトを引っ張った。


しばらく行くと水も増え、いい感じの流れに。
ラフトの上でのんびりと遊ぶ。

昨夜のストーリータイム。持ってきた本は「Where the Red Ferns Grows」。
リーガンが子供の頃に好きだった本で、少年と犬の話だ。

この続きが気になる子供達は、リーガンに読んでとせがんでいた。
ラフトを漕ぎながら、ストーリータイム。

流れの速い場所に、子供達は大喜び。

「ホワイトウォーター!」
キャーキャー悲鳴をあげて、喜ぶ私達。
「ディズニーランドみたいだね。」


いや、ディズニーランドの数倍いいよ。

なんせこっちはホンモノよ!


この流れを上手く下れるか、やって来るイサオさんをみんなで見守る。



やった!成功。


途中で、素晴らしく景色のいい場所を見付けた。
崖の上でハヤブサが華麗に飛び通い、水には魚がジャンプしている場所。
その川岸は広い平地になっていて、柔らかい砂場もある。テントを張るには持って来いの場所だ。

時刻は6時45分。
まだ今日は6時間しか川に入ってないが、大人3人の意見が一致し、この場所でキャンプをする事にした。


リーガンとイサオさんは、すぐに竿を持って川に入った。
私はそんな風景を、のんびりと眺めていた。




しばらくしてリーガンが、
「メルモ、ちょっと来て。」
と私を呼ぶ。

慌てている様子。
いったい何だ?

私が歩いて行くより早く、近くにいたイサオさんが気付いた。



リーガンの背中に、釣り針が刺さっていた。


フライフィッシングをしていたリーガン。抵抗を感じ、自分の針が後ろのどこかに引っかかっていると思い、ぎゅっと振った。
しかし針は、リーガンの背中に引っかかっていたのだ。

振った拍子に、背中により深く刺さってしまった釣り針。



「返しがついてるから、これは痛いよ。」
イサオさんの言葉とリーガンの痛そうな顔。

ぎゃー。怖すぎる。
私は、もうそれ以上近くに寄れなくなってしまった。



イサオさんは、どうにか針を取ろうとしている。
目を瞑り、ぐっと我慢しているリーガン。
遠くで、オロオロと見守る事しか出来ない私。




本当によかった。イサオさんがいてくれて。



そして約20分後、ようやく針が取れたようなので、近づいて行った。


「手術をしたよ。」
イサオさんが言う。
針が深く刺さっていて全然取れないので、イサオさんはナイフでリーガンの皮膚を切ったそうだ。



ナイフで、皮膚を?

麻酔の代わりに、傷口の周りをぎゅっとつまんで痛さを分散したとも言っていた。



...すごい。
私には絶対に無理だ。
血を見るのも怖いのに。


やはり山をやってるような人は、こういう状況は慣れてるって事なんだろう。
応急処置も、何でも自分でやれないと。




「すごいね。手術って。こういう事今まで何度もしてきたの?」
当然イエスという答えだと思っていた。


しかしイサオさんは涼しい顔で、
「いや、ないよ。初めてだよ。」
と答えたのだ。




・・・!?




「本では読んだけどね。」
「いい経験をさせてもらったよ。」





よ、よく切れたね。



その後イサオさんは、ムサシに釣りを教えてくれて、ムサシは初めて魚をあげたのだ。

このムサシの、嬉しそうな顔!

私が、イサオさんの釣りの腕前をすごいすごいと何度も言うもんだから、リーガンはヤキモチを焼いたのか、一言。

「俺なんか、200パウンド級をあげたんだぞ。」




それって、自分釣ったんじゃん!



釣った後は、魚の捌き方講座。
釣るのはいいけど、魚を殺すのは怖くて顔を隠すムサシ。

それに比べアラシは、
「魚の脳みそも見てみようよ。」

兄弟なのに、この違い。

「じゃあ、魚が何を食べていたか見てみようか。」
リーガンも加わり、大人が子供達に生物の不思議を教える。
こういうの、大事だね。


夕食は、釣った魚とチキンのケサディーヤ。
明日からの予定を話しながら、美味しく頂きました。
プロフィール

Nami

Author:Nami

アラスカ在住。

アメリカ生活19年。(いつの間にか)
99年に島根県隠岐の島で知り合ったアメリカ人リーガンと結婚し、テキサス移住。
2006年に夫の思い付きでまさかのアラスカお引越し。
息子は2人。(ムサシ&アラシ)
アンカレッジの山の家に住んでます。

夏はアウトドアで遊び、冬はひたすらジムに通う。
現在は、釣りとズンバに夢中。


「心も身体も健康に。毎日ハッピー」が私のテーマ



*ズンバインストラクター
アンカレッジでズンバクラスをしてます。ぜひ参加して下さい!
初心者大歓迎。

ズンバクラスのページ






*西邨マユミ アラスカ支部マネージャー
アラスカでプチマクロお料理教室してます。お仕事の依頼は
AKiroiro@gmail.com
まで。







ブログの感想など、メールしてもらうと嬉しいです。
AKiroiro@gmail.com



ブログに掲載されている文章や写真の無断転載はお断りしています。
ご使用になりたい方はお問い合わせ下さい。

最新記事
インスタグラム
カテゴリ

● アラスカで外遊び





● アラスカのお祭り


● お家で趣味










最新コメント
検索ぷらす
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

月別アーカイブ
10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09 
*
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる